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【日本の「水」が危ない】など。

1:。。。_φ(・_・ 。。。 :

2020/03/22 (Sun) 02:35:41

host:*.ocn.ne.jp

日本の「水」が危ない。。。_φ(・_・

4:。。。_φ(・_・ 。。。 :

2020/03/24 (Tue) 03:37:44

host:*.ocn.ne.jp

麻生氏は何故?嬉しそうに、CSISで、日本の水道を全て(!?)民営化します!なんて言ったのだろう!?
そんなの日本国民聞いてないよ〜〜〜! もうすでに、請求書に外資系会社の名前がある地域も多いらしいね。

(オイ!「連続投稿です」・「連続投稿です」って、ウッセーんだよ〜。何が悪いってんだよぉ〜!?)
\\\٩(๑`^´๑)۶////    (−_−;)
3:。。。_φ(・_・ 。。。 :

2020/03/22 (Sun) 03:36:17

host:*.ocn.ne.jp

1章の最後の部分の続き。。。より

要するに、2018年改正水道法は、企業活動の自由を優先して規制が極めて緩い一方、利用者である住民への配慮は乏しいのだ。
政府がいうように、水道事業が火の車であることは確かだろう。
しかし、それで世界の潮流を無視し、リスクに関する説明責任や、問題発生を防ぐ体制を置き去りにすることは正当化できない。
2018年改正水道法に最も欠けているのは、説明を尽くして納得を得ようとする姿勢なのである。



第2章 「水道民営化」で成功・失敗した世界の事例

先進国の光と影

フランス──「水道民営化」先進地での反乱
 第1章で述べたように、欧米諸国では水道事業への民間参入に長い歴史があるが、これは財政赤字を背景に、新自由主義の台頭とともに1980年代以降に一気に加速した。
ただし、水道事業への民間参入のスタイルには国ごとに違いがあり、それによって「水道民営化」の評価も分かれてくる。
この章では世界の「水道民営化」の事例を紹介するが、以下ではまず主な先進国での経験を振り返る。

 先進国のなかでもフランスは、「水道民営化」の先進地と呼べる。
フランスでは1980年代にコンセッション方式が普及し、フランス環境省によると2010年段階で上水道の約30%(人口の75%)、下水道の約24%(人口の50%)が民間企業によって運営されている。
この割合は先進国のなかでも屈指の高さだが、そのほとんどが水メジャーの一角を占めるヴェオリアとスエズの2社によって操業されており、ヴェオリアは8000以上、スエズは2600以上の自治体で活動している。

 その一方で、フランスは再公営化の先進地でもある。
トランスナショナル研究所と国際公務労連による調査によると、2000年から2014年までに世界全体で水道が再公営化された180件の事例のうち49件は首都パリを含むフランスのもので、これはアメリカの59件に次ぐ多さだ。
また、この調査の対象になっていない1990年代からすでに再公営化の事例は報告されており、アルプス山脈に近いグルノーブル市で1996年に実現した再公営化は、その嚆矢となった。

 これらの再公営化の事例は、フランス人口の約4分の3が民間企業に経営される上水道を利用していることからすれば、一部にすぎないともいえる。
とはいえ、「水道民営化」が進んだフランスで再公営化が目立つことも確かだ。なぜ、フランスでは反動が生まれたのか。

 大きな理由としては、安全面とコスト面での不満があげられる。
例えば、パリでは1985年のコンセッション方式の導入後、煮沸するなどしなければ水道水を飲めないといった苦情が相次いだ。
その一方で、水道事業に民間企業が参入した途端、水道料金が跳ね上がることも稀ではなかった。
再公営化の先駆けとなったグルノーブル市の場合、1989年から1995年までの間に水道料金は56%上昇し、エクセター大学のヘンリー・ブラー教授が1990年代に行った調査によると、これは公営に比べて40%高かった。

 民間事業者による経営が必ずしも期待された効果を生まなかった原因の一つは、フランスのコンセッション方式にあった。
フランスでは水道事業への民間参入が加速するなか、それまで水道事業のほとんどを担ってきた各地の水道局は水質保全に特化し始め、全国の水道局の連合体である地域河川流域委員会がその統括にあたった。
しかし、同委員会は事業者の決定に介入する法的強制力が与えられなかったため、問題のある事業者に「勧告」はできても、それ以上の措置は事実上とれない。
また、この組織には自治体(コミューン)と民間事業者の間の契約内容などをモニターする権限も与えられなかった。

 フランスの法律では、民間事業者が自治体に提出する毎年の報告書を、事前の見積もりと比較することも禁じられている。
「前提となる条件が異なる」というのがその理由だが、事後の検討さえなければ、実現可能性の低い、安い見積もりで入札を勝ち抜いた事業者にフリーハンドを与えるに等しい。
チェックされない状況で経済合理性が最も高い行動は、「作業の手を抜いて楽をして、利用者に吹っかける」ことだ。
だとすれば、水行政の透明性の低いフランスで水質の悪化や料金の上昇が発生したことは、不思議ではない。

 そのため、環境や安全の問題そのものは、民間委託を続けている自治体でも発生しているが、それにもかかわらず再公営化の波が一部にとどまっている大きな理由としては、民間事業者に対する自治体の発言力の問題がある。

 パリを例にあげよう。1985年にコンセッション方式の導入が決定されたパリでは、その後やはり水質や料金への問題が噴出した。
そのため、パリ市は水道事業を委託していたヴェオリアやスエズへの監査を強化し、事業者の請求金額が経済的に正当化される水準より25~30%高く設定されていたことや、事前の見積もりに沿って積み立てる資金額と実際の作業費用の差が拡大し、その結果としてコストが実態以上に膨らんで水道インフラのメンテナンスが遅滞していたことが発覚した。
民間事業者の問題が相次いで発覚し、それまで「水道民営化」を支持していた人々の反対が沈静化するなか、パリ市は2010年、ヴェオリアとスエズとのコンセッション契約終了にともない、水道事業を公営に戻した。

 ただし、フランスはもともと中央集権制が強く、自治体の能力や権限は弱い。
パリやグルノーブルなど一部の都市では市当局が監査や司法を活用して水道事業者を追及することができても、人員や資金に乏しい小さな自治体の場合、水メジャーを相手に対等の交渉をすることすら困難だ。
また、小さな自治体ほど、契約期間中に契約を打ち切ることで発生する違約金の負担は大きい。
それは裏を返せば、30年前後のものが多いコンセッション契約が相次いで終了するこの数年間に、フランスでさらに多くの自治体が水道事業を再公営化する可能性が高いことを意味する。

アメリカ──自由の国は「水道民営化」に積極的か

 アメリカはフランスと並んで水道の再公営化が目立つ国の一つで、世界全体の再公営化の180の事例のうち59を占める。
ただし、アメリカの場合、フランスと異なり、もともと水道事業を民間事業者に委託している自治体は多くない。
ノースカロライナ大学の統計によると、全米50州にワシントンDCと自治領プエルトリコを加えた52の領域のうち、公営の施設の方が多いのは33、公営の水道利用者の方が多いのは50にのぼる。

 また、ルイーズビル大学のクレイグ・アンソニー・アーノルド教授によると、2009年段階で自治体の給水システムの33%が民間事業者によって運営されていたが、その利用者は全米人口の15%にとどまった。

 なぜ、アメリカでは、水道事業を民間事業者に委託する自治体が多くないのか。
アメリカではヨーロッパ諸国と同じく民間事業としての水道の歴史が古く、さらに市場メカニズムを信頼する新自由主義の拠点でもある。
1980年に就任したロナルド・レーガン大統領は、イギリスのサッチャー首相と並んで新自由主義の旗手と目され、そのもとでアメリカでは水道事業を含むあらゆる公共サービスの規制緩和が進められた。
さらに、アメリカでは1997年、公営の場合と同じく民間企業が水道事業を経営する場合でも非課税にすると定められたため、民間事業者にとって公営サービスとの競争力は、他国と比べて高いはずである。

 それにもかかわらず、水道事業への民間参入が必ずしも多くない大きな理由は、多くの政治家やエコノミストが強調するほど、民間企業の参入によるコスト削減やサービス向上の効果があがらなかったことにある。
第1章でも取り上げたコーネル大学ミルドレッド・ワーナー教授の研究のように、多くの統計的な調査は民間委託の効果を裏付けていない。

 この点で、アメリカはフランスと共通する。
つまり、フランスと同じく、アメリカでも強制力をもって民間事業者を全国で一律に監督する機関がないため、プリンシパル・エージェント問題が発生しやすいのだ。
ただし、地方自治が発達したアメリカでは、「水道民営化」で問題が発生した場合、住民の主導で軌道修正が図られる点で、フランスと異なる。
その手段としては、選挙や裁判が一般的だ。

 ここでいう選挙による解決とは、「水道民営化」を実施した首長への批判が高まり、選挙で敗れたことで、再公営化が実現するパターンを指す。
その一例として、ジョージア州アトランタの事例をあげよう。

 アトランタでは1999年、コンセッション方式に基づき、フランスのスエズが出資するユナイテッド・ウォーターに水道事業を委託した。
しかし、ユナイテッド・ウォーターのもとで水道職員が4年間で半減されたため、安全対策に手が回らなくなり、茶色く濁った水道水が出るようになった。
そのため、ユナイテッド・ウォーター自身が水道水の煮沸を呼びかけただけでなく、毎年のように水道料金が引き上げられた。

 これらの問題が噴出したにもかかわらず、民間事業者に業務を委託した市長のもと、市当局は改善を強制できなかった。
その結果、2004年に新たな市長が就任してわずか半年後に、ユナイテッド・ウォーターとの20年契約は5年で解消されたのである。

 このように選挙が再公営化のきっかけになることがある一方、住民が訴訟を起こすこともある。
アメリカでは民間企業の商品に問題があった場合、消費者が集団訴訟で権利の回復を目指すことが珍しくなく、水道事業者も例外ではない。

 その一例であるカリフォルニア州ストックトンでは2003年、一部の住民が水質の悪化を理由に、同市が水道事業を委託していたイギリスのテムズ・ウォーターとの契約破棄を求めて提訴した。
これに対して、カリフォルニア州地裁はテムズ・ウォーターの供給する水道水がカリフォルニア州法の環境基準に合わないと認定し、改善命令を出したが、契約そのものは違法と認定されなかった。

 選挙や裁判など、いわば事後的な手法で軌道修正が図られること自体、アメリカでは問題ある水道事業者を実効的に監督できる機関がないことを示す。
それがサービスの質の悪化だけでなく、トラブル対応などで余計にコストが生まれやすい土壌になっていることに鑑みれば、コスト意識が高い自治体ほど「水道民営化は割に合わない」と判断しても不思議ではない。

 そのため、アメリカでは「水道民営化」の弊害を防ぐための次善の策も講じられるようになっている。
例えば、先述のストックトンでは、裁判と並行して住民の発議で水道事業者と新たな契約を結ぶ際には住民の同意を得ることを求める住民投票が行われ、これが賛成多数で成立した。
この動きは各地に広がっており、2018年8月にはメリーランド州ボルティモア市議会が水道事業への民間参入を全面的に禁じることを決定した。
これは自治体による水道規制の動きがアメリカでさらに進みつつあることを象徴する。

イギリス──完全民営化の黄信号

 イギリスはPPPやPFIの本家とも呼べる。
1980年代のサッチャー政権の改革は、「水道民営化」を含む各国での規制緩和と「小さな政府」を基調とする改革の呼び水となった。

 しかし、水道事業に関しては、イギリスは独自の道を歩んできた。
イギリスでは1989年、全国の上下水道が地域ごとに分割され、当初、30社以上が水道事業に参入したが、経営統合や吸収合併が繰り返された結果、2018年現在で19社がシェアのほとんどを握っている。
さらにその民間企業に経営権だけでなく設備などの所有権も譲渡された。
フランスやアメリカなど多くの国ではコンセッション方式が中心だが、完全に民営化されたイギリスのスタイルは、世界的にも珍しいものだ。

 水道事業が100%民営化されたイギリスでは、再公営化は一件も発生していない。
その意味で、イギリスの方がフランスやアメリカより安定している。

 ただし、それはコンセッション方式より完全民営化の方がパフォーマンスがよいから、というより、イギリスでは公的機関による監督がフランスなどより発達しているから、とみた方がよい。
イギリスの場合、水道各社はそれぞれの区画で設備まで独占するだけに、政府も強い監督権をもっているのだ。

 イギリスでは水道が民営化された1989年、料金を監督する水道事業規制局、上水道の水質検査に責任を負う飲料水検査局、河川などの汚染を監視する環境局が、それぞれの管轄省からエージェンシーとして独立し、水道事業を監督する法的権限を与えられた。
フランスの地域河川流域委員会が民間事業者の決定に介入する法的権限が与えられなかったのと対照的に、イギリスのこれらの機関は問題ある事業者に改善命令を出せる。

 一例をあげよう。
1998年から1999年にかけて全国の水道事業者が「EUの新基準に合わせるため」という理由で一斉に水道料金を平均46%引き上げた際、水道事業規制局は価格引き上げが行き過ぎと判断し、12・3%までに抑えるよう命令した。
イギリスとフランスを比較調査したブロック大学のモハメド・ドレ教授らのグループは、こうした実質的な監督が可能な独立機関の有無が両国の「水道民営化」のパフォーマンスの差になり、ひいては利用者の満足度の差を生んだと結論している。

 とはいえ、公的機関による監督が機能してきたとしても、そのことと完全民営化の効果は別問題だ。
2017年に発表された調査報告で、ロンドン大学のケイト・ベイリス博士らは「イギリスの水道事業が公営だったなら年間23億ポンド(約3220億円)のコスト削減になった」と結論づけた。
なぜ、完全に民営化しているのに、イギリスの水道事業者はコストが高くなりやすいのか。
その主な理由として、ベイリス博士らは借り入れの多さを指摘する。

 ベイリス博士らの調査によると、イギリスの水道事業者の資産(エクイティ)は1990年に200億ポンドをやや下回り、これは2010年代半ばまでほとんど変化がなかった。
その一方で、1990年にほぼゼロに近かった水道事業者の借入額は、2010年代半ばには400億ポンドを上回った。
つまり、イギリスの水道事業者は借り入れを増やすことで水道施設への投資を増やしてきたわけだが、借入額の多さは結局コストとなり、水道料金にはね返ってきたというのだ。
2016年段階でベイリス博士らの調査対象になった下水道9社は、利払いだけで収益の7%にあたる14億5000万ポンドを返済にあてている。

 念のために付言すれば、これは放漫経営というほどのレベルではない。
一般的に、企業の自己資本に占める負債額の割合(ギアリング比率)は100~150以下に抑えるべきといわれるが、ベイリス博士らが調査したイギリスの下水道事業者の場合、2016年段階で最も高かったのはテムズ・ウォーターの80%で、9社中5社は75%未満だった。

 とはいえ、事前に想定されていたほど水道事業者が投資を集められず、借り入れを増やしてきたことは確かだ。
借り入れの多さは、収益のあがりにくさにつながる。
こうしたいびつな構造は政府財政への負担にもなっており、2016年段階で9社が支払った税金は17億ポンドで、これは売上高の8%だった。

 ちなみに、ギアリング比率が9社のなかでとりわけ高く、75%を上回っていた4社はいずれも、ジャージーやケイマン諸島などの租税回避地に拠点をもつ企業からの投融資に依存しており、水メジャーの一角を占めるテムズ・ウォーターもその一つだ。
これはイギリスの水道事業が、一部とはいえ外国の機関投資家の食い物にされている構図をうかがわせる。

 ただし、一旦完全に民営化した水道事業を公営に戻そうと思えば、そのハードルはコンセッション方式の場合より高い。
イギリスのシンクタンク、ソーシャル・マーケット財団は、イギリスの水道事業を再公営化する場合のコストを、民間事業者の資産の買い上げや長期の投資などを含めて、900億ポンド(約124兆円)と試算している。
これに照らせば、世界に類のない完全民営化を実現させたイギリスの水道事業は「前門の虎、後門の狼」に直面しているといえる。

ドイツ──市場経済に偏りすぎない民間参入

 先進国のなかで「水道民営化」による問題が比較的少ないのがドイツだ。
2011年のドイツ水道局の資料によると、上下水道の64%は民間事業者によって経営されている。
また、ドイツにも水メジャーと呼べる大企業はあり、巨大エネルギー企業で世界屈指の水企業でもあるRWEは、ドイツ国内で630万人以上に給水している(三井物産戦略研究所)。

 しかし、ドイツでは水の安全が総じて保たれているだけでなく、水道料金の上昇率もインフレ率を下回り続けてきた。

 もちろん、ドイツも水道事業の再公営化の波と無関係ではない。
トランスナショナル研究所などの報告では、2000年から2014年までの間に、世界全体での水道再公営化180件のうち、ドイツのものは8件含まれる。
このうち1件は、首都ベルリンのものだった。

 ヨーロッパを代表する都市の一つベルリンでの再公営化は、パリのそれと並び、水道再公営化の波を象徴する。
ただし、上水道の30%、下水道の24%が民間事業者によって経営されているフランスで49件の再公営化が発生したことに比べると、ドイツの8件は頻度がずいぶん低い。

 なぜ、ドイツでは水道事業への民間参入が進みながらも、他の国より問題が少ないのか。
結論からいえば、市場経済に偏りすぎずに民間参入を進めているからである。
その象徴は、「ベルリン・モデル」と呼ばれる手法だ。
これはベルリンの再公営化にもかかわることなので、まずその名の由来になったベルリンの「水道民営化」についてみておこう。

 ベルリン州は1998年、民間投資家との共同出資により、上下水道公社の経営を行うベルリン水道持ち株会社を設立した。
ベルリン州と投資家の出資比率は、それぞれ50・1%、49・9%で、これによって民間企業に水道事業の経営を委託しながら、自治体がこれを監督することが可能と期待された。
これをベルリン・モデルと呼ぶ。フランスやアメリカの水道事業でコンセッション方式の導入が広がり始めた1990年代、ドイツでは単純な規制緩和への根強い反対意見があり、自治体の関与が強いベルリン・モデルはこれを反映したものだった。

 ただし、「本家」ベルリンではその後、ベルリン・モデルが衰退した。
1999年、ベルリン水道持ち株会社の49・9%の株式がRWEとヴェオリアの企業連合に買収され、その後ベルリン当局との非公開の協定により、経営権が企業連合に委託されたのだ。
「ドイツ史上最大のPPP」と呼ばれたこの契約には、ベルリン州が民間投資家に8%の配当を28年間保証する内容も含まれていた。
この株主配当が重荷となり、設備投資の不足と料金の高騰が発生したため、市民からの強い批判を受け、2011年には契約内容の公開を求める住民投票が実施される事態となった。

 住民投票の結果、賛成多数でヴェオリアへの配当保証を含む契約内容が公開されると、抗議運動はさらに加熱した。
高まる批判に、ベルリン当局は翌2012年にRWEから、2013年にヴェオリアから、それぞれ株式を買い戻すことに合意せざるを得なくなったが、このために13億ユーロの負担を余儀なくされ、その分が再公営化後の水道料金に上乗せされることになったのである。

 これが反面教師となり、ベルリン・モデルはむしろドイツの多くの地方都市で維持され、コンセッション方式は一部の大都市に限られてきた。
ベルリン・モデルの最大のメリットは、当事者同士の間で情報格差が小さく、プリンシパル・エージェント問題が発生しにくいことで、これによって安全面、コスト面での問題の発生が、全面的でないにせよ抑えられてきたといえる。
さらに、民間の水道事業者が利用者から直接料金を徴収する場合は、連邦カルテル庁など公的機関の監督を受けなければならない。

 ただし、公的機関と民間企業のいわば共同経営だと、特定の地域での独占営業になりやすく、競争原理が働きにくいという批判もあり得る。
これはある程度、ドイツの事例にも当てはまる。
ドイツの水道事業では純粋な企業間の競争も、あるいはイギリスで行われているヤードスティック規制(一定区域で独占的に事業を行う企業各社が相互にパフォーマンスを評価し、低パフォーマンスの企業にはペナルティを科す制度)も働かない。

 その一方で、ドイツでは、水道事業に参入する民間事業者に、さまざまなレベルでの監査・監督が義務付けられている。
まず、民間事業者は当然、入札で競争にさらされる。次に、民間事業者は自治体によって価格面のパフォーマンスも査定される。
自治体が事業者の情報を常時把握しているベルリン・モデルでの査定は、民間企業に事業を丸投げしやすいコンセッション方式のもとでの査定より厳格なものになる。
また、自治体間で相互のパフォーマンスを比較するベンチマーキングも導入されている。こうしたさまざまな制度を指して、ミュンヘン大学IFO経済調査研究所のヨハン・ワッカーバウアー上級研究員は、ドイツの水道事業で「半競争」が働いていると表現する。

 とはいえ、ベルリン・モデルが民間事業者を実質的に監督しやすく、プリンシパル・エージェント問題を発生させにくいとしても、これがどこにでも輸出できるかは別問題だ。
自治体が十分な能力と権限を備えていなければ、ベルリン・モデルは成立しないからである。
言い換えると、ベルリン・モデルは市場経済に傾きすぎないだけでなく、連邦制で自治体の独立性が高いドイツならではのものといえる。

開発途上国の苦悩 フィリピン──「成功」の陰で

「水道民営化」は先進国だけでなく開発途上国でも広がってきた。
ただし、それはすべての国でというより、主に先進国と外交的に近い関係の国ほど目立つ。
こういった国ほど、1980年代から先進国で台頭した新自由主義的な改革の波の影響を受けやすかったのである。

 しかし、多くの場合、開発途上国での「水道民営化」は、先進国でのものより問題を引き起こしやすかった。
その理由を一言でいえば、これらの国ではもともと先進国と比べて政府の能力が乏しく、おまけに水メジャーが本国でより傍若無人に振る舞うことが多いからだ。
以下では、特に問題の目立つ国の事例をみていこう。

 まず、新自由主義の台頭以降、最も早い段階で水道事業への民間参入を始めた、東南アジアのフィリピンを取り上げる。
冷戦時代、アジア最大の米軍基地が置かれていたことからもわかるように、フィリピンは伝統的にアメリカの影響が強く、1980年代から世界銀行などが融資の前提条件として市場経済化を求め始めたとき、これを受け入れやすい土壌があった。
その結果、この国の首都マニラでは1997年、コンセッション方式に基づき首都上下水道局の経営が民間企業に委託され、今日に至っている。
これは現在進行形の「水道民営化」のうち最長のプロジェクトの一つだ。

 コンセッション方式の導入にともない、マニラの水道は東西に分割され、それぞれがマニラ・ウォーターとメイニラッド・ウォーターに委託された。
このうち、東部を担当するマニラ・ウォーターはフィリピンの建設大手アヤラの他、イギリスのユナイテッド・ユーティリティ、アメリカのベクテル、そして三菱商事などの企業連合で、西部を担当するメイニラッド・ウォーターは放送、エネルギー、不動産開発などを手掛けるフィリピンの複合企業ベンプレス・ホールディングスと水メジャーの一角スエズなどが参加する企業連合である。

 こうした海外企業による経営のもと、世界銀行によると、例えば東部ではコンセッション方式が導入された1997年には26%に過ぎなかった24時間水道を利用できる住民の割合が、2006年には99%に至った。
それと並行して、この地域では1997年から2008年までの間に下痢発生の割合が51%下落するなど衛生環境が改善した一方、漏水率は1997年の63%から2011年には11・2%にまで下落した。

 こうした成果を踏まえて、このプロジェクトを主導した世界銀行はしばしば、マニラでの「水道民営化」を「開発途上国における安全な水の普及のモデルケース」と宣伝する。

 ただし、その「成功」は危ういものでもある。
マニラでは水道料金が右肩上がりで伸び続けており、フィリピンのNGOフリーダム・フロム・デット・コアリションは、東西の区画のいずれの水道料金も、1997年から2008年までに1000%以上高騰したと推計している。
この間、フィリピンで物価が全体的に上昇したことは確かだが、それでも水道料金の上昇率はインフレ率を上回るだけでなく、パリなど先進国でのものをもしのぐ。

 水道料金の高騰は、世界銀行のいう「水道普及の成果」にも疑問を呼んでいる。
水道料金が高すぎて、水道が普及しても、それを利用できない人々が続出したからである。

 公営の時代、マニラの貧困層の間では水道管から勝手に給水するといった行為も珍しくなかったが、コンセッション方式の導入後、民間事業者はこれを厳しく取り締まり、さらに水道料金が支払えない場合、基本的に給水は停止された。
その意味で、民間事業者は確かに効率的に経営してきたといえるが、同時に所得格差による水へのアクセスの格差が深刻化したことも疑いない。
つまり、貧困層は水道をほとんど利用していないのだ。

 その結果、貧困層が多い地域では路上で水を売る「水屋」が繁盛し、ボトル詰めの水も販路を拡大させた。
こうした状況を指して、アメリカのNGOコーポレート・アカウンタビリティ・インターナショナルは、世界銀行の「成功」が「高い水に採算の合う範囲内のもの」と指摘している。

 これほど水道料金が高騰した背景には、先進国より発言力の弱い開発途上国の立場がある。
先述のように、もともとフィリピンはアメリカに安全保障、経済の両面で依存していたため、いわゆるワシントン・コンセンサスが推し進める「水道民営化」に抵抗しにくい立場にあった。
この立場の弱さは当局と水道事業者の間の交渉にも影響してきた。

 例えば、1997年のアジア通貨危機の後、フィリピン経済が停滞するなか、2001年3月にメイニラッド・ウォーターはコンセッション契約に基づく使用料の支払いを中止し、併せて首都上下水道局に対して、通貨ペソの下落分とインフレ分を補完する追加料金を徴収できるよう、契約の変更を迫った。

 ここで注意すべきは、もとの契約のなかで、通貨下落の場合には調整した金額で水道料金を徴収することがすでに定められていたことだ。
つまり、メイニラッド・ウォーターの要求は、どさくさに紛れて「二重取り」を求めるものだったが、結局フィリピン当局は2002年末までという期限付きでその徴収を認めざるを得なかった。
ところが、メイニラッド・ウォーターは期限を過ぎても二重取りを続け、フィリピン当局からの中止命令を無視した。
同社の二重取りは国際仲裁裁判所の命令でようやく止まったが、利用者はその間、通常より高い水道料金の支払いを求められ続けたのである。

 フィリピンでは水道の再公営化が一件も発生していない。
しかし、それは海外企業やその背後にいる先進国に対するフィリピンの発言力の弱さに鑑みれば不思議ではなく、「再公営化がないから問題もない」とはいえない。
世界銀行のいう「成功」は、その上に成り立っているのである。

ボリビア──コチャバンバの「水戦争」

 他の開発途上地域と比べて、ラテンアメリカでは1990年代から「水道民営化」の事案が多い。
その一つの要因は、19世紀からこの地域を「裏庭」と扱ってきたアメリカの影響力の強さにあるが、もう一つの要因は、ラテンアメリカ各国が石油危機後の1980年代に巨額の債務を抱え、財政破たんの危機を迎えるなか、世界銀行がこれを救済する資金協力の中心となったことだ。
こうした背景のもと、いわゆるワシントン・コンセンサスに沿って、ラテンアメリカ諸国では1990年代から水道事業の規制も緩和されてきた。

 ただし、「水道民営化」が全く期待外れに終わることも珍しくなく、ボリビアはその典型例といえる。
ボリビアの水道事業ではこれまで2件のコンセッション案件が実施されたが、いずれもが契約途中で打ち切られた。
ここでは、「水道民営化」の失敗例として名高い、コチャバンバでの「水戦争」を取り上げる。

 ボリビアでは1990年、ワシントン・コンセンサスの圧倒的な圧力を前に、水が全て国家のものであること、国家は水を第三者に売却できることを定めた法律が可決され、これに基づき当時約40万人の人口を抱えていた同国第3の都市コチャバンバでの水道事業に参入する入札が行われた。
しかし、この際ボリビア政府はコチャバンバ住民にほとんど説明を行わず、しかも議会審議はわずか48時間で結審するなど、住民の要望が反映される機会はほとんどなかった。

 そのうえ、入札に参加したのはアメリカの水企業ベクテルの現地法人アグアス・デル・トゥナリだけで、これに世界銀行ですら懸念を示すなか、ボリビア政府は同社とコチャバンバでの水道事業に関するコンセッション方式に基づく40年契約を交わしたのである。

 問題はすぐに噴出した。操業開始からの2カ月間でアグアス・デル・トゥナリは、それまで断水も珍しくなかったコチャバンバで水道水の供給量を30%増加させた一方、所得に応じた居住区ごとに異なる料金体系を導入したうえで、水道料金を平均35%引き上げたのだ。

 アグアス・デル・トゥナリからすれば、この引き上げ幅は投資額に見合う対価として適切な価格設定だったかもしれない。
しかし、新たな料金体系のもと、所得水準によっては引き上げ幅が数百%に及ぶこともあった。
水道民営化に反対する運動を主導し、後に「環境問題のノーベル賞」とも呼ばれるゴールドマン環境賞を受賞したオスカル・オリビエラ氏が当時行ったインタビュー調査の結果には、「月収80ドルの教師宅で、それまで約5ドルだった水道料金が25ドルになった」という証言もある。

 影響は水道を利用していない世帯にも広がった。
コンセッション契約では水道だけでなく、個人の私有地にある井戸にもメーターを取り付け、料金を徴収する権限がアグアス・デル・トゥナリに認められていたのである。

 高まる批判と不満に対して、ボリビア政府は当初、全くといっていいほど傍観者だった。
ボリビア政府は水道事業への民間委託を進めるなか、事業者を監督する機関として、基礎的衛生セクター監督庁を設けていた。
しかし、同庁はもともと予算や人員が不足していただけでなく、ワシントン・コンセンサスに沿った改革に前のめりになっていたボリビア政府の意向を受け、むしろ「水道民営化」を推し進める立場に回り、アグアス・デル・トゥナリの決定に介入することはなかった。

 公的機関が沈黙するなか、数万人規模の抗議デモがコチャバンバで広がり、これに対して政府は軍を動員してその鎮圧を図ったが、衝突のなかで死傷者が出たため、抗議デモはさらに激化した。
そのため、ボリビア政府は2000年11月、それ以前に支払った水道料金を還付することで妥協を図ったが、デモ隊は納得せず、アグエス・デル・トゥナリとの契約解消を求めて抗議活動を続け、これに対して政府は非常事態を宣言するなど、対立が泥沼化したのである。

 この混乱のなか、翌2001年4月にアグエス・デル・トゥナリは撤退を宣言し、コチャバンバの水道事業は再公営化された。
しかし、アグエス・デル・トゥナリは同年11月、2500万ドルの損失補償を求めてボリビア政府を提訴した(同社がコチャバンバで操業した間に投資した金額は1000万ドルと見積もられている)。
この提訴は結局、ボリビア政府がアグエス・デル・トゥナリの責任を追及しないという条件付きで取り下げられたものの、一連の出来事と相まって多くのボリビア人が反新自由主義に傾いたとしても不思議ではない。
2006年のボリビア大統領選挙で反米社会主義者ファン・モラレス候補が当選し、同じ年にエル・アルト市で行われていた水道事業のもう一件のコンセッション案件も契約が破棄され、さらに基礎的衛生セクター監督庁までも解体されたことは、この延長線上にある。

 ただし、「水道民営化」の廃止により、水道が安心して利用できるようになったとはいえない。
再公営化後のボリビアでは、社会主義的な政府のもとで国家主導による水道普及が進められてきたが、国連児童基金(UNICEF)によると、2012年段階で安全な飲料水にアクセスできる人口は88%にのぼったものの、下水を利用できる人口は46%にとどまる。
コチャバンバの「水戦争」は「水道民営化」の弊害をあらわにしたが、その後のボリビアの状況は、もともと資金や人員に限界のある開発途上国が公営のみで水道事業を展開することの限界をも示しているのである。

南アフリカ──「水道民営化」の拡大を阻む失敗の連鎖

 貧困国の集まるアフリカでは、他の地域よりさらに安全な水の確保が難しく、水道の普及が大きな課題の一つになっている。
そのなかで海外企業が「安全な水を供給する」という社会的意義を強調して水道事業に参入することもあるが、これが逆効果になることも珍しくない。
アフリカを代表する地域大国である南アフリカでさえ、その例外ではない。

 南アフリカ政府は進行中のPPP案件をオンラインのデータベースで公開しているが、2019年1月現在でここに掲載されている68件のうち水道事業は4件にとどまる。
この割合の少なさは、PPPが開始された1990年代に水道関連の案件で問題が多発したことに鑑みれば不思議ではない。
トランスナショナル研究所などの報告によると、南アフリカで2000年から2014年までに少なくとも3件の水道事業が再公営化されたが、そのなかには同国最大の都市ヨハネスブルクでのものも含まれる。

 南アフリカにおける水道事業への民間参入は、1995年に政府が公共サービスを立て直す必要性を強調し、PPP導入の方針を示したことで加速した。
このなかで2000年にヨハネスブルク市が水道経営を5年間委託する契約を結んだ、フランスのスエズが出資するヨハネスブルク水道管理会社は、2001年初頭からそれまでの水道事業に大ナタを振るい始めた。

 世界屈指の格差社会である南アフリカ(ジニ係数は70を上回る)では、もともと毎月一定量の水道水が無料で供給され、さらに高所得者が多めに負担した水道料金が補助金として低所得者に再分配される仕組みがあった。
ところが、経営を引き受けたヨハネスブルク水道管理会社のもと、無料で提供される水道水の量が一人当たり1日50リットルから25リットルに削減された他、2003年には再分配の負担割合が見直され、低所得層の自己負担分が増えた。
さらに、2004年には低所得層の世帯がプリペイド式メーターの設置か、自宅ではなく屋外での水道利用かの選択を迫られた。プリペイド式メーターの場合、事前に支払った分以上の水道は利用できない。
これら一連の措置の結果、ヨハネスブルクの低所得層は事実上、水道の利用が制限されたのである。

 この事態を受け、水道民営化反対連盟などのNGOに主導された抗議デモが頻発しただけでなく、一部の住民がプリペイド式メーターを低所得層にだけ求めることの是非や、無料分の水道水の量をめぐって高等裁判所に提訴した。
2007年12月、高等裁判所はプリペイド式メーターの設置を認め、さらに無料分を1日25リットルと認めるなど、ヨハネスブルク水道管理会社の主張を支持する判決をくだした。

 しかし、この裁判の最中の2006年の年末、ヨハネスブルク水道管理会社との契約が切れたヨハネスブルク市は、同社との契約を更新しなかった。
住民からの反発の大きさが、ヨハネスブルク市当局に司法の判断を待たず、市に政治的な判断をさせたといえる。

「自分が利用したものは自分で払うべき」という利用者負担の原則からすれば、この裁判は「弱者の言いがかり」と映るかもしれない。
ただし、その一方で、もとの水道システムに問題が多かったとしても、市場経済の論理でこれを一刀両断にしたことが、結果的に貧困層の生活を追い詰めたことも疑いない。

 さらに、これに関連して強調すべきは、多くの人が安全な水にアクセスできない状態が社会全体の衛生環境を悪化させかねないことだ。
ヨハネスブルクでの裁判に先立つ段階で、南アフリカではすでにこの問題が浮上していた。

 同国東部のクワズールー・ナタール州は1999年3月、州内ドルフィン・コーストでの水道事業に関して、同国で初めてとなるコンセッション方式に基づく委託契約を、フランスの水道大手SAURと南アフリカのメトロポリタン・ライフの企業連合シーザとの間で結んだ。
シーザは後のヨハネスブルク水道管理会社と同じく、プリペイド式メーターの設置を進め、未納世帯に対して容赦なく水道を停止した。
その結果、多くの低所得層が水道を利用できない状況になっていた2000年、コレラがこの地方を襲ったのである。

 南アフリカではしばしばコレラが流行していたが、2000年の蔓延ではクワズールー・ナタール州だけで12万人以上が感染し、死者は少なくとも300人にのぼった。
1982年、やはりコレラがこの地方を襲ったときの死者が24人だったことと比べると、その多さが際立っている。
安全な水を利用できない人口が多かったことが被害を増加させたとみられるため、これはヨハネスブルクでの問題への注目度をいやが上にも高めさせたといえる。

 南アフリカは貧富の格差が目立つ一方で、政治的に混乱する国が多いアフリカのなかで民主主義に基づく統治が根付いた数少ない国の一つでもあり、「水道民営化」の最初の段階で国民の間に根深く染みついた不信感があることは、その後水道事業への民間参入が必ずしも活発でない土壌になっているのである。

「水道民営化」に向かう新興国 中国──「公的機関の企業化」がもたらしたもの

 新興国のなかには南アフリカのように「水道民営化」に熱心でない国がある一方、その逆もあり、代表例として中国があげられる。

 中国では水道を含む公共サービスへの民間参入が進められており、世界全体のPPP案件を記録するプライバタイゼイション・バロメーターのデータベースによると、その収益は2015年だけで1333億ドル以上にのぼる。
同じ時期のEUが633億ドルだったことから、その規模の大きさがうかがえる。
この背景のもと、これまでに2件の再公営化の事例があるものの、水道事業でも民間参入は進んできた。
その結果、アメリカのシンクタンク世界資源研究所は、中国全土の上水道の17%以上、下水道の67%以上に民間企業が参入していると試算している。

 注意すべきは、ここでいう「民間参入」が独特の意味をもつことだ。
中国では多くの国営企業が独立採算に基づき独自の経営を求められており、これらが業種を超えて水道事業に参入している。
さらに、省や自治区の政府が国営企業や海外企業とジョイント・ベンチャーを立ち上げることも多い。
公的機関が企業と共同で経営する点ではドイツのベルリン・モデルに近いが、多くの国営企業までもが参入し、しかもベンチマーキングなどで民間事業者に競争を促さない点で異なり、「公共サービスの民営化」というより「公的機関の企業化」と呼んだ方が実態に近い。

 公的機関が自らビジネスの主体となることは、新興国では珍しくないが、中国でとりわけ目立つ。
それは中国の国内事情を反映したものといえる。

 中国における水道事業への民間参入の解禁は、改革・開放が加速した1980年代にさかのぼる。
経済発展にともない都市化が進むなか、水道需要の高まりに応じきれなかった中国政府は、1991年に水道事業におけるBOT(建設、操業、移転)を導入し、これをきっかけにヴェオリア、スエズ、テムズなどが中国進出を加速させたのである。

 しかし、その後やはり料金の高騰などが多発した結果、1997年に中国政府は、それまで水道事業に参入する海外企業に売上高の12~18%を利益として保証していた「利益保証」を廃止し、海外企業にとっての旨味を減らした。
最近では、2008年に共産党機関紙である人民日報の電子版が、海外企業の操業による水道料金の高騰を懸念する論評を掲載しており、これは中国で海外企業への警戒感が広がっていることを象徴する。

 ただし、中国の場合、「水道民営化」そのものも、海外企業の参入も制限されていない。
その一つの目的は、中国版水メジャーを育成するためだったとみられる。
つまり、中国政府にとって国営企業は重要な基盤であり、水道事業に民間参入を促すことは、国営企業に経済的チャンスを与えるものでもある。
とはいえ、いきなり水道事業を担える中国企業は多くない。
そのため、海外の水メジャーを全面的に排除しないことは、これと提携することで、ノウハウや技術を蓄積する機会を国営企業に与えるものでもある。
また、政府や共産党にパイプをもつ中国の国営企業と提携することは、海外企業にとっても好都合だ。

 その結果、海外企業との提携に基づき、水道事業を行ってきた企業だけでなく、コンサルタント大手の北京創業やソフトウェア開発大手の清華同胞など、異業種から参入した中国版水メジャーとも呼べる巨大国営企業が台頭してきた。

 こうした背景のもと、「公的機関の企業化」は拡大している。
清華大学水政策研究センターが2008年に152都市を調査した結果によると、水道事業における民間参入の手法のうち、最も多かったのは株式移転(44%)で、これにジョイント・ベンチャー(27%)、民間企業による経営(10%)と続き、かつて海外企業の活動の中心だったBOTは3%にとどまった。

 株式移転であれジョイント・ベンチャー設立であれ、自治体は企業に全て委託するわけでなく、共同で事業を行うため、水道事業を直接的に監督しやすい点に特徴がある。
これに関して、アメリカのブルッキングス研究所の報告書は、プリンシパル・エージェント問題を引き起こしにくいものと評している。

 とはいえ、ただ公的機関と企業の関係が近いだけで、水道事業のパフォーマンスが向上するとは限らない。
香港のNGOグローバリゼーション・モニターが2011年に6都市でインタビュー調査を行った結果、「水道が快適でない」と回答した割合は平均77・7%にのぼった。

 そのうち、最も割合が高かった広東省深圳市(88・3%)では2003年、深圳市が株式の55%、ヴェオリアおよび北京創業が45%をそれぞれ保有する深圳水務が設立された。
しかし、同社のもとで水道料金はあがり続け、例えば2010年だけで19・2%引き上げられた。その一方で、2008年段階で深圳水務の純利益は2590万元(約4億836万円)にのぼり、これは同社の総資産の0・84%に過ぎなかった。
つまり、自治体、海外企業、国内企業のジョイント・ベンチャーであり、深圳の水道事業を独占する深圳水務は、大きな利益を得ながらも、それを利用者に還元する意思は乏しいのである。

 中国では公的機関の透明性が低く、汚職も蔓延している。外部からチェックできない状況のまま、公的機関と企業が共同で事業を行っても、ただ癒着を生むだけになる可能性すらあることを、中国の経験は示している。

ブラジル──住民参加の水管理

 すでに述べたように、他の開発途上地域と比べてラテンアメリカは「水道民営化」が目立つ地域だが、そのなかでもブラジルはとりわけ積極的な国の一つだ。
OECDによると、ブラジルでは1990年から2006年までの間にコンセッション方式で39件、BOTで10件のプロジェクトが実施された。
これはラテンアメリカ一の規模で、ブラジル民間水道・下水処理協会によると、民間事業者の水の利用者は2012年段階で全人口の7・5%にあたる1400万人にのぼった。

 その一方で、周辺のボリビアなどと異なり、再公営化の事例は少ない。
例えば、1995年にサンパウロ郊外のリメイラ市は、スエズが出資する企業連合にコンセッション方式に基づき水道事業を委託した。
これはブラジルの最初期のコンセッション契約の一つだったが、その後の料金改定で所得に応じた料金加算が見直され、低所得層の間では水道料金が176%上昇し、これに対する抗議デモも発生したことで、各地に「水道民営化」への不信感を広げる端緒ともなった。
しかし、それでも2000年から2014年までに限ったトランスナショナル研究所の調査で、ブラジルにおける水道再公営化の事案はゼロである。

「水道民営化」の案件数が多い一方、再公営化の事例が少ない点だけみれば、ブラジルは中国と共通する。
さらに、ブラジルでは中国と同じく、自治体と民間企業が共同で経営する水道事業者も多く、1973年にサンパウロ州が設立し、1996年からは株式の一部を公開している上下水道会社Sabespは、その典型である。

 しかし、ブラジルと中国ではもちろん事情が異なる。
最大の違いは、住民参加の有無にある。
単純化していえば、中国の場合、利用者である住民への説明責任や情報公開がほとんどないまま、省・自治区政府が「いつの間にか」民間参入を進め、異論や不満は基本的に抑え込まれてきた。

 これに対して、ブラジルでは1997年、水道事業を含む水資源の管理に関する最高意思決定機関として全国水資源理事会が発足したが、ここには連邦政府や水道事業者だけでなく、消費者団体を含むNGOや住民の代表が参加してきた。
つまり、民間企業とともに利用者の意見も反映される仕組みがあるからこそ、他国ほど問題や弊害が深刻化することなく、「水道民営化」が進んできたのである。

 もちろん、この仕組みは一朝一夕にできたものではなく、ブラジルでの水をめぐる争いのなかで確立された。
もともとブラジルは国土面積が広い(世界第5位)うえに、山岳地帯からジャングルまで国内の気候条件は地域によって異なる。
さらに、大河アマゾンは州をまたいで横断しているが、連邦制によって州政府に幅広い権限が認められるため、水資源の利用をめぐる対立は絶えなかった。
その一方で、他のラテンアメリカ諸国にも共通するが、所得格差の生まれやすい地主制が存続し、アメリカの影響力が圧倒的に強いなか、市場経済に傾いた富裕層と、これに抵抗する労働組合やNGOなどの間の階級闘争は伝統的に激しい。

 この複雑な背景のもと、他のラテンアメリカ諸国と同じく、1980年代に債務危機に陥ったブラジルでは、親米的な軍事政権がアメリカや世界銀行の要求に沿った改革を進めたが、1985年の民政移管後もワシントン・コンセンサスの影響力から逃れることはできず、1990年代には「水道民営化」に着手し始めたのである。

 しかし、リオデジャネイロなどいくつかの地方政府が先駆けとなって進めた「水道民営化」で料金高騰などの問題が噴出したことで、海外企業を含む民間企業と住民団体、NGOの対立が深刻化した。
その結果、それぞれの勢力が政府とともに水資源の問題を総合的に取り扱う組織の発足に合意し、これによって1997年、先述の全国水資源理事会が誕生したのである。

 つまり、水資源問題に関する最高意思決定機関である全国水資源理事会に住民代表やNGOが参画しているのは、それ以前から彼らが「水道民営化」をめぐって公的機関や民間事業者と交渉や衝突を繰り返してきたからこそである。
このように公的機関、民間事業者、利用者代表が顔を揃える仕組みは、他国と比べて、ブラジルの「水道民営化」を安定させてきたといえる。

 ただし、この安定が持続するかは未知数だ。

 ブラジルでは原油価格が急落した2014年以降、GDPが2年連続でマイナス成長を記録するなど経済危機に陥り、それにともない政府の汚職などへの不満が爆発してジルマ・ルセフ大統領(当時)が弾劾で罷免されるなど政治的にも混乱を深めた。
財政赤字も深刻化するなか、ルセフ氏を継いだミシェル・テメル大統領(当時)は就任直後の2016年7月、経済危機を抜け出す方策の一環として水道事業の一部を民間委託する方針を決定した。
これを受けて、27州のうち18州でこれが支持されたが、折からの干ばつで水不足が深刻化したことも手伝い、全国水資源理事会での議論は難航した。

「水道民営化」をめぐる対立がこれまでになく深刻化するなか、2018年11月に大統領選挙が実施され、国外に対しては保護主義的な傾向が強いが、国内に対しては規制緩和を推奨するジャイル・ボルソナロ氏が当選した。
「ブラジルのトランプ」とも呼ばれる強権的なボルソナロ大統領のもと、ブラジルは合意形成を優先させる従来の水管理を維持できるかの正念場に立たされているのである。

ペルシャ湾岸諸国──大産油国のジレンマ

 中東には富裕な産油国が多く、とりわけ湾岸協力機構(GCC)に加盟するペルシャ湾岸の6カ国(バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)の一人当たりGDPは、平均で先進国のそれにほぼ匹敵する。
その一方で、土地の大半を砂漠が占め、降雨量も少ないため、石油より水の方が貴重品だ。
また、石油は豊富でも、技術や人材は総じて乏しい。

 こうした背景のもと、これらペルシャ湾岸諸国でも水道事業への海外企業の参入は珍しくない。
この地域は他にも増して情報の透明性が低いため、断片的なデータにならざるを得ないが、ドバイのコンサルティング企業MEEDのデータによると、この6カ国向けの水道関連のPPP投資額は2017年だけで約20億ドルにのぼった。
ここには他の地域でもみられる経営の委託(公設民営)や下水処理場などの建設・経営だけでなく、海水淡水化プラントや水を輸送するパイプラインなど砂漠ならではの施設のBOTも含まれる。

 このような「水道民営化」は、今後さらに増えると見込まれる。
GCCは2016年、地域一帯で水道インフラを発展させるための方策として「統一水戦略」を採択したが、その戦略目標には「水道事業でPPPを増やすこと」も盛り込まれている。
GCCの盟主サウジアラビアでは、2015年に実権を握ったムハンマド皇太子のもと、国家の近代化に向けた改革が推し進められ、海外からの投資も奨励されている一方で、周辺国への統制も強化されていることが、これを後押ししている。

 ただし、注意すべきは、ペルシャ湾岸諸国では民間企業に大きな裁量を認めるコンセッション方式の導入が稀なことで、少なくとも筆者が確認した範囲では一件もなかった。
これらの国が民間企業の参入を促しながらも、市場原理に即した水道経営を避けてきたのは、政治的な理由によるところが大きい。

 ペルシャ湾岸諸国は国王に絶対的な権限を認める専制君主制であることで共通する。
これに対する不満もあるが、各国政府は政治参加や言論の自由を制限する見返りに、無償の公共サービス、税金の免除、公務員としての雇用といった形で豊富な石油収入を国民に分配し、生活上の満足感を与えることで、その立場を保ってきた。
その一つが、料金がほとんどタダに近い水道の普及だった。
つまり、利用者が料金を気にせず水道を利用するための費用をほぼ全面的に負担することは、ペルシャ湾岸諸国の政府にとって、重要な権力基盤の一つなのである。

 その水道事業に海外企業の参入が認められるようになった転機は、「逆石油危機」とも呼ばれた1980年代の原油価格の下落にあった。
財政危機に直面し、さらに人口増加や都市化が進むなか、1990年代に各国は公共サービス改革を余儀なくされた。
このなかで、とりわけ政治的な問題になりやすい水道に関しても、1998年にアラブ首長国連邦のアブダビでPPPに必要な法整備が行われたことをきっかけに、各国で同様の動きが広がった。

 ところが、ここでペルシャ湾岸諸国の政府は一つのジレンマに直面した。
それは「技術が不足する以上、水道事業の経営改善のために海外企業の参入を促したいが、まともに市場メカニズムを導入すれば、これまで安く設定していた水道料金を引き上げざるを得ない」ことだった。
他の地域で「水道民営化」後にみられた数十%の引き上げともなれば、国民に生活上の満足感を与えることによって成立する各国政府の支配の正当性を傷つけかねない。
そのため、ペルシャ湾岸諸国では、民間企業に委託した場合でも、政府が補助金などを充当して、水道料金の上昇を抑え続けたのである。

 例えば、サウジアラビアの事例をみてみよう。
サウジアラビアでは2008年、水道事業のPPPを統括する国立水道会社が100%政府の出資で設立された。
同年、国立水道会社は首都リヤドの水道事業の経営をヴェオリアに、ジェッダでの水道経営をスエズに、それぞれ委託したが、契約では国立水道会社が資金を調達するとされた。

2:。。。_φ(・_・ 。。。 :

2020/03/22 (Sun) 02:52:02

host:*.ocn.ne.jp
はじめに
「日本の水道が危ない」というと「何を大げさな」と笑う人もあるかもしれない。「不安を煽るのは無責任だ」と息巻く人もあるかもしれない。何も思わない人もあるかもしれない。
 しかし、2018年11月に国会で成立した水道法改正案は、「安全で安い」水道を危うくしかねず、日本に暮らす全ての人が無関係ではいられない。

 この改正案の、何が危ういのか。それは改正水道法が、水道事業への民間企業の参入を想定していることだ。

 もともと日本の水道サービスは、世界屈指の高いレベルにある。国土交通省の2004年の「日本の水資源」によると、国土全体で水道水を飲める国は世界全体で13カ国にすぎず、日本はその一国だ。つまり、日本の「安全で安い水」は、世界レベルでみれば希少価値の高いものでさえある。

 ただし、多くの人は気づいていないが、水道事業の経営は存続すら危ぶまれるほど厳しい状態にある。そのため、政府は「効率的な経営」を掲げ、水道事業に民間企業の参入を促すことで、公的な負担を減らすことができると強調している。これは、いわば利用者や自治体にとってのメリットを最大限に強調する論理だ。

 とはいえ、電気、鉄道、電話など、これまでに民営化された公共サービスと比べても、水道事業は人間の生命に直結するもので、ここに民間参入を認めることは、いわば劇薬だ。水道事業への民間参入は世界各地で先行しているが、その多くの事例で水質が悪化して水を飲めなくなったり、料金が高騰して水道サービスを受けられない人が出たりする弊害が多発している。民間事業者の経営は、政府や推進派が力説するような魔法の杖ではない。

 それにもかかわらず、なぜ多くの国で水道事業への民間参入が止まらないのか。一言で言えば、水道が新たなビジネスチャンスになっているからだ。

 日本人が「安くて安全な水」を謳歌していた間に、世界では水への関心が高まってきた。世界有数の証券会社ゴールドマンサックスは2008年、有望な投資対象としての水を「21世紀の石油」と表現した。水に利益を見出す巨大企業が数多くあるため、問題が発生しても、政治や行政による是正が難しい。つまり、人間にとって不可欠な資源である水が「商品」として扱われる国では、水道事業が巨大企業の儲け口にされているのである。

 改正水道法は、世界の情勢からほとんど隔絶していた日本を、こうした水ビジネスにさらすものだ。しかし、これに関する利用者の関心は、決して高くない。その大きな原因の一つは、情報不足にあるのかもしれない。実際、日本でも一部の研究者が以前から水ビジネスの問題を指摘し、関連書も出版されていたが、広く認知されてきたとは言いにくい。言い換えると、多くの国民がほとんど関心も知識もない間に、改正水道法はスムーズに成立したともいえる。

 本書は、これに対する危機感のもとに著された。水道法が改正されても、それで自動的に水道事業が民間企業に委託されるわけではない。民間参入を認めるか、認めないかの決定権は自治体にあり、改正水道法はそれを法的に可能にしたにすぎない。それでは、実際に自治体が水道事業への民間参入を認めた場合、どんな影響があるのか。本書を、人間にとって欠かせない水を改めて見直し、読者が暮らす自治体の「水道民営化」について考える参考にしていただければ幸いである。

 なお、公共サービスへの民間参入にはさまざまな形態があり、それらの全てがJRやNTTなどのような完全な民営化ではないが、本書では便宜上、水道事業を民間企業に委託する全ての手法の総称として「水道民営化」と表記することとする。

第1章 なぜ、いま「水道法改正」なのか
水道法改正の大義
火の車の水道事業
 当たり前のように蛇口から出てくる水が、大きな転機を迎えている。2018年の第196回臨時国会では重要法案がいくつも可決されたが、なかでも水道法改正案(正式名「水道法の一部を改正する法律案」)は上水道を含む水道事業への民間企業の参入を加速させるもので、公営が当たり前だった水道は、これによって新たな時代に入った。

 なぜ、水道事業に民間参入が認められたのか。どこにその必要があったというのか。あるいは、それによって利用者にはどんなメリットが期待されているのか。

 これらを考えるとき、まず大前提にあるのは、日本の水道を取り巻く厳しい環境だ。近年では水道管などの設備の老朽化が進んでいて、橋や道路などその他のインフラと同じく、メンテナンス費用が膨らんでいる。そのうえ、台風や地震などの自然災害の多発で、復旧のために工事が必要なことも増えている。

 それにもかかわらず、必要な資金は年々減り続けている。厚生労働省によると、1998年に1兆8000億円を超えていた水道事業における投資額は、2013年には約1兆円にまで落ち込んだ。

 なぜ、必要な資金を投入できないのか。そこには、水道の使用量と水道料金の仕組みが関係している。

 少子高齢化が進むなか、水道の使用量は減り続けている。厚生労働省によると、水道使用量は2000年の一日3900万㎥から、2014年には3600万㎥に減少しており、このペースでいけば2060年には2200万㎥にまで落ち込むと推計される。ところが、上水道の水道料金と下水道使用料は独立採算が原則で、水道使用量が減れば減るほど、各世帯の負担額は増加することになる。そのため、水道法改正の前から各地で水道料金が引き上げられてきたが、それでもメンテナンスや災害地での復旧のための資金は十分ではないのだ。

 これに加えて、水道職員の不足も深刻化している。就職氷河期から採用を絞り込んだ結果、40代未満の水道職員が不足している一方、2000年代半ばには団塊世代の大量退職の時期を迎えた。その結果、最盛期の1980年代前半に約7万5000人いた全国の水道職員は、2000年代半ばには6万人を割り込み、約20年間で20%近く減少したのだ。

 こうした厳しい状況のなか、水道事業の存続を図る起死回生の一手として政府が打ち出したのが、民間企業の資金、人材、ノウハウの投入だった。つまり、民間の資金や人材を活用することで公的機関の不足を補え、コスト意識の高い民間企業による公営より効率的な運営でムダを減らせるというのだ。政府によると、それによって利用者にも質の高いサービスが提供できるという。

改正水道法のポイント
 それでは、政府が水道事業を存続させるために打ち出した2018年改正水道法の内容をみてみよう。原文はかなり長大なので、ここでは衆議院厚生労働委員会の資料で示される8つのポイントをあげる。

 一 都道府県は、その区域の自然的社会的諸条件に応じて、その区域内における市町村の区域を超えた広域的な水道事業者等の間の連携等の推進その他の水道の基盤の強化に関する施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない。

 二 厚生労働大臣は、水道の基盤を強化するための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めるものとする。都道府県は、基本方針に基づき、水道基盤強化計画を定めることができる。

 三 都道府県は、市町村の区域を超えた広域的な水道事業者等の間の連携等の推進に関し必要な協議を行うため、当該都道府県が定める区域において広域的連携等推進協議会を組織することができる。

 四 水道事業者は、厚生労働省令で定める基準に従い、水道施設を良好な状態に保つため、その維持及び修繕をしなければならない。また、水道事業者は、水道施設の台帳を作成し、保管しなければならない。

 五 水道事業者は、長期的な観点から、給水区域における一般の水の需要に鑑み、水道施設の計画的な更新に努めなければならない。また、水道事業者は、水道施設の更新に要する費用を含むその事業に係る収支の見通しを作成し、これを公表するよう努めなければならない。

 六 地方公共団体である水道事業者は、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律第十九条第一項の規定により水道施設運営等事業に係る公共施設等運営権を設定しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。

 七 指定給水装置工事事業者の指定は、五年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効力を失う。

 八 この法律は、一部を除き、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

民間参入の前提としての広域化
 以上のうち、キーワードになるのは「広域化」だ。

 これまで水道事業は基本的に、市町村ごとに運営されてきた。しかし、それは水道事業が全国で細分化されていることを意味する。

 小泉純一郎政権(2001~2006年)のもとで進められた市町村合併、いわゆる平成の大合併は、自治体の大規模化によって財政力を強化し、ばらばらに行われていたごみ処理など公共サービスを共有して効率化することを大きな目的とした。ただし、この大合併で市町村の数は2002年4月の3218から2006年3月には1821にまで減少したものの、それでも人口が1万人以下の自治体は2015年12月現在、全国で512にのぼる(国勢調査)。

 これらの小規模な自治体ほど、水道事業の存続が危ぶまれる。とりわけ過疎化の進む市町村ほど、財政力や人員が先細りしやすく、さらに隣家との距離が数百メートルもあるような土地では、水道管の敷設などにかかるコストが割高になりやすいからだ。

 2018年改正水道法で打ち出された広域化は、特にこうした小規模な自治体の水道事業を存続させるためのアイデアで、スケールメリットによる効率化を重視する点で平成の大合併に通じる。つまり、自治体がそれぞれ行っていた水道の設備投資やメンテナンスを、都道府県が設置する広域的連携等推進協議会のもと市町村を超えて行うことで、設備や業務の重複などが削減され、水道事業が効率的・効果的に運営されると期待されるのだ。厚生労働省によると、2017年4月段階で、すでに26道府県で広域連携に向けた協議会などを設置しており、2018年改正水道法はこれを後押しするものだ。

 ところで、2018年改正水道法での広域化は、民間企業の参入も念頭に置いている。改正水道法によると、自治体から委託された水道事業者は水道施設のメンテナンスや修理、施設の更新、水道台帳の作成などの業務を行えるが、民間企業の参入を促す以上、ビジネスとして成り立つ必要がある。水道事業を行う区画が細切れに分断されていると市場としての魅力が乏しくなりやすいため、ある程度の規模を確保しなければ、民間企業にとって参入のハードルが高い。要するに、水道事業の広域化は、民間企業に参入を促しやすい条件でもあるのだ。

赤字の公共サービスを存続させる方法
 ただし、民間参入を促すとはいえ、2018年改正水道法で想定されているのは、かつての国鉄や電電公社の民営化とは異なる。

 国鉄や電電公社の場合、経営権だけでなく、施設などの所有権も民間企業に譲渡された。これに対して、2018年改正水道法では、施設などの所有権を公的機関に、経営権を民間企業に、それぞれ認める公共施設等運営権制度(コンセッション方式)が適用される。コンセッション方式では公的機関と民間企業がいわばオーナーとマネージャーの関係になり、これまでに水道事業以外でも、赤字経営が慢性化していた仙台空港などで実施されてきた。

 コンセッション方式の特徴を理解するため、公共サービスに民間企業が参入する他の仕組みと比較してみよう。

 公共サービスは公営が原則だが、赤字体質で財政赤字が大きくなったり、ニーズの高まりに公的機関が追い付けなかったりすることも珍しくない。これらへの対応としては、公営を維持しながら特定部門を独立させて効率化を目指すエージェンシー化(独立行政法人の設置など)や、国鉄や電電公社で行われた完全な民営化などがある。

 しかし、公営と民営の中間には、パブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)と呼ばれる手法がある。PPPは「官民連携」あるいは「公民連携」と訳され、公的機関と民間企業が役割分担して公共サービスを提供する仕組みを指す。そこでは、同じコストをかけるにしても、民間企業の参入によってより効率よく事業を行うことで、サービスの価値を高めることが目指される。「支払いに対するサービスの価値」をヴァリュー・フォー・マネー(VFM)と呼び、このVFMを最大化することがPPPの大きな目的の一つだ。

 この考え方に基づくPPPは、業務の内容、所有権や経営権のあり方、新規事業か継続事業かなどにより、細かく分類される。

 PPPのうち公営に最も近いのは、部分的業務委託と呼ばれる仕組みだ。これは業務のうち中核的な業務(コア業務と呼ばれる)ではない一部だけを民間企業に委ねるもので、水道事業では料金徴収などがこれにあたる。次に、より幅広い業務を一括で委託する方式として包括的業務委託がある。水道の場合、浄水場の設置・運営などが含まれるが、全体をパッケージで委託するため、施設運営、修繕、料金徴収など業務ごとに個別に入札する手間がかからない。さらに、これら二つは契約期間でも差があり、部分的業務委託に単年度契約が多いのに対して、包括的業務委託では3~5年が一般的だ。

民間企業の創意工夫を促す仕組み
 ただし、これらの手法では、コスト削減の効果が限定的になりやすい。それは発注の仕方に理由がある。

 公的機関が民間企業に委託する場合、業務の手順や内容なども指定する「仕様発注」と、サービスの最低限の質だけを規定する「性能発注」がある。手法に制約がない性能発注の方が企業にとって創意工夫を発揮しやすく、民間委託によるコスト削減の効果があがりやすい。そのため、包括的民間委託でも性能発注が原則になっている。

 ところが、実際には仕様発注で入札が行われることも少なくない。包括的業務委託の経営主体はあくまで公的機関で、民間企業はその「下請け」に近く、問題が発生した場合に責任を問われるのは公的機関だからだ。そのため、特に日本では、公的機関が性能発注に熱心ではない。

 しかし、民間委託によるコスト削減の効果を優先させる立場からは、事業者の自由度を高めることが求められてきた。これを重視した手法として、デザイン・ビルド・オペレート(DBO)方式がある。DBOは公的な設備の全部あるいは一部を新設する場合に、公的機関が起債や交付金などで資金を調達し、施設の設計・建設、運営などを民間企業に包括的に委託する方式で、「公設民営」と呼ばれる。

 DBOでは性能発注に基づく10~30年の長期契約が一般的で、短期間で個別の業務ごとに入札を繰り返すことによるコストを削減する効果も期待される。ただし、新規事業がほとんどで継続事業には少ないうえ、基本的に公的資金が投入されるため、公的機関からみれば財政負担は小さくなく、民間企業からみれば柔軟な資金運用が難しい。

 そこで、民間の技術・人員だけでなく資金も活用する仕組みとして、プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)がある。PFIにはさまざまなタイプがあるが、従来の公共事業と異なり、民間事業者が投資や融資などで資金調達も行う点に大きな特徴がある。公的機関にとっては財政的な負担が軽くなり、それと引き換えに民間企業は性能発注に基づく経営の主体として、大きな裁量が認められる。契約が20年前後の長期間であることも手伝って、PFIにはコスト削減の効果が大きいといわれる。

コンセッション方式とは
 このPFIの一種として、2018年改正水道法で想定されているコンセッション方式がある。コンセッション方式はPFIのなかでも、とりわけ民間事業者の裁量の余地と責任が大きい仕組みだ。

 基本的にPFIでは公的機関が施設などの所有権を握り、民間企業に経営権が認められるが、コンセッション方式ではこれに加えて、委託された事業者が公的機関に対価を支払い、公共サービスを提供し、利用者から料金を徴収することになる。対価を受け取れるので、公的機関は施設からの収益を早期に回収できる。

 それと引き換えに、民間事業者には公的設備の経営権を独立した財産権として扱うことが認められ、事業者はこれを担保に金融機関や投資家から資金を調達できる。そのため、事業者にとっては柔軟な資金運用が可能になる。ただし、仮に経営が行き詰まった場合には、出資者に抵当権が発生する。したがって、民間事業者の責任も大きい。

 ちなみに、2011年の改正PFI法で下水道にはすでにコンセッション方式が導入されており、2018年改正水道法の対象は上水道である。下水道でのコンセッション方式は2018年4月から静岡県浜松市で第1号がスタートしているが、これに関しては第3章で詳しく取り上げる。

 ともあれ、コンセッション方式は他のPFI以上に民間事業者に高い独立性と大きな責任を認める仕組みで、そこには「民間企業の自由な活動によって経営が効率化され、質の高いサービスが提供できる」という発想が鮮明といえる。

「水道民営化」に向けた世界の潮流
新自由主義の台頭
 2018年改正水道法で促されるコンセッション方式の導入は、世界全体の潮流と無関係ではなく、多くの国では「水道民営化」は新しいテーマではない。ここで、水道事業への民間参入が各国でどのように始まったかをみておこう。

 古来、水は飲料など生活用水としてはもちろん、農業、工業などに不可欠な資源でもあるため、国家が直接管理したり、共同体で管理したりすることが一般的だった。古代ローマの遺跡に残される水道は、水の支配が人間の支配につながるというローマ皇帝の意思を感じさせる。また、近代以前の日本では、河川などが基本的に共同体によって管理されることが多く、水の利用をめぐる村同士の衝突も珍しくなかった。

 ところが、資本主義経済が発達した19世紀までに、欧米諸国では民間企業による水道経営が普及していった。記録によると、1820年にはロンドンで6社が操業していた。連邦政府の権限が小さく、民間が公共サービスを提供せざるを得なかった開拓時代のアメリカではこれがさらに目立ち、1850年には約60%の水道が民間事業者によって運営されていた。当時、都市に人口が集中し始め、衛生環境の悪さからコレラなどが頻繁に発生していたことが、安全な飲料水や下水処理のニーズを高めていた。欧米諸国では、水ビジネスに古い歴史があるのだ。

 ただし、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、水道は公営が主流となった。これは当時、普通選挙が普及し、所得の低い労働者階級も発言力を高めたことを背景に、各国で社会保障、教育、公共事業などに政府が積極的に関与する「福祉国家化」が進んだことに連動していた。その結果、欧米諸国の水道事業に占める民間企業のシェアは総じて縮小し、例えばアメリカでは1924年段階で約30%にまで下落していた。福祉国家化が本格化した第二次世界大戦後、水道の公営化はさらに普及した。

 しかし、この波は1980年代に逆流し始め、再び水道事業への民間参入が加速していった。その転機は1970年代の二度の石油危機にあった。戦後、先進国で一貫して進んだ経済成長は原油価格の高騰によってブレーキがかかり、それまで大きな問題とみられていなかった財政赤字への警戒感が広がり、税金の負担感が増すなか、各国で「福祉国家化」への見直しが議論され始めたのだ。

 このなかで台頭したのが、「小さな政府」と規制緩和を旗印とする新自由主義だった。新自由主義は市場メカニズムへの信頼が厚く、政府が経済に関与することを非効率の温床とみる。また、個人の「選択の自由」を重視し、その裏返しとして自己責任を強調する点にも特徴がある。この立場からすれば、国家による公共サービスの独占は、非効率的なサービスを利用者に強いるだけでなく、個人の選択権を奪うものと映る。

 新自由主義の色彩が特に強かったのが、1979年にイギリスで初めて女性として首相に就任したマーガレット・サッチャーによる改革だった。それまで「ゆりかごから墓場まで」といわれたイギリスの手厚い社会保障が改革され、国鉄民営化やエージェンシー化をともなう中央省庁の再編が推し進められた他、サッチャー政権後のイギリスでは現代に通じるPPPやPFIの手法の多くが開発された。その結果、世界銀行の統計によると、イギリスでは1982年に6・6%だったGDPに占める公共セクターの割合が、1991年には1・9%にまで下落した。

 この背景のもと、1989年にサッチャー政権は水道事業の民間委託にも着手し、これによって全国(イングランドとウェールズのみ)の上下水道事業が分割され、民間企業がこれを担う体制ができた。これらの改革の影響はイギリス国内にとどまらず、それに触発されるように、やはり財政難に直面していた多くの先進国で、1980年代から1990年代にかけてコンセッション方式を含む水道事業への民間参入が進んだのである。

ワシントン・コンセンサスの衝撃
 欧米諸国で生まれた「水道民営化」の波は、やがて欧米以外にも及び始めた。

 もともと19世紀の段階ですでに、欧米諸国で進んでいた民間企業による水道運営は、帝国主義の時代背景のもと、世界各地に広がっていた。特に、欧米諸国の水道事業が公営中心になった19世紀末頃から水企業は海外に活路を求め始め、例えばエジプトでは1865年にフランス資本により設立されたカイロ・ウォーターによってカイロの水道普及が進められ、アルゼンチンでは1887年にイギリス資本ベイトマン・パーソンズ・アンド・ベイトマンがブエノスアイレス下水道の設置・運営権を得ている。

 しかし、こうした水ビジネスは20世紀に入って縮小していった。先進国で「福祉国家化」が進むのと並行して、開発途上国でも水道事業の公営化が一般的になったのだ。そこには、独立したてでナショナリズムの高まっていた各国で、外国企業に水を握られることへの警戒感と反感があったことも見逃せない。

 ところが、「水道民営化」の波は1980年代に再び開発途上国に押し寄せ始めた。そこには、先進国と同じく、石油危機をきっかけに深刻な財政赤字が表面化したことがあった。とりわけ、ラテンアメリカやアフリカの各国は、財政赤字を穴埋めするために先進国の金融機関からの借り入れを増やしたが、これを返済できなかったことで、借金が雪だるま式に膨れ上がっていたのだ。

 この背景のもと、国際連合加盟国への資金協力を行う国際通貨基金(IMF)と世界銀行が多重債務に苦しむ国の救済に乗り出したが、これらの機関は融資の前提条件として、相手国に規制緩和や「小さな政府」に沿った改革を求めた。IMFや世界銀行が描いたシナリオを簡単にまとめれば、「硬直化した公共セクターの規制緩和は民間企業を活性化させ、経済成長をもたらすだけでなく、政府の財政負担も減らす。これによって、債務の返済が可能になる」というものだった。そこには、市場メカニズムを疑わない新自由主義的な発想が色濃くみられる。

 IMFと世界銀行は国連の一部で、その資金運用は世界全体に大きな影響力をもつが、資金の大半を出資する先進国の発言力が大きく、なかでも最大の出資国アメリカの意向が強く反映される。そのため、当時すでに先進国で高まりつつあった新自由主義の考え方がIMFや世界銀行の方針に作用したことは不思議ではない。IMFと世界銀行の本部はアメリカの首都ワシントンDCにあることから、この三者による方針は「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる。

 ワシントン・コンセンサスの影響力は、1989年の東西冷戦終結によって、さらに強まった。ソビエト連邦という対抗馬があった時代、西側先進国は開発途上国が東側陣営に接近することを恐れ、反発が大きい改革の要求を控えざるを得なかった。しかし、冷戦が終結し、さらに国境を越えた投資が当たり前のグローバル化の時代を迎えたことで、開発途上国は政治的にデリケートな問題になりやすい「水道民営化」も求められるようになったのである。

 その結果、開発途上国での水ビジネスは1990年代に一気に加速した。例えば、ラテンアメリカだけでも、1990年から2006年までの間の水道事業への民間参入の案件は少なくとも163件にのぼり、このうちコンセッション方式は101件を占めた(経済協力開発機構【OECD】)。その多くは、当然のように古い歴史と豊かな財源・ノウハウをもつ欧米の水企業によって落札された。こうして、欧米諸国に規制緩和を求められた開発途上国に、欧米の水企業が進出する構図ができたのである。

争点としての水ビジネス
1990年代の世界では、世界全体で水道事業への民間参入が進んだだけでなく、ボトル詰めウォーターの市場も急速に拡大した。その結果、水ビジネスは急速に拡大し、コンサルティング会社フロスト・アンド・サリバンによると、2018年段階でその全世界での市場規模は6959億ドル(約70兆円)にのぼる。このうち、およそ3分の2が水道事業のものとみられている。

 水ビジネスが拡大するにつれ、その取り引きに関するグローバルな制度やルールの整備も進められた。その動きの中心には、巨大な水企業の姿があった。

 詳しくは第4章で取り上げるが、水ビジネスの長い歴史をもつ欧米諸国には、水道経営を請け負うフランスのヴェオリアやスエズ、イギリスのテムズ・ウォーターの他、水処理機器で世界市場の大きなシェアを握るアメリカのゼネラル・エレクトリックなど、巨大な水企業が軒を並べている。これらに加えて、スイスのネスレやアメリカのペプシなどの食品・飲料メーカーはボトル詰めウォーターを扱っている。これらの水企業は、グローバル化が進む世界で、水に関する投資や貿易の規制緩和を各国政府に働きかけてきた。

 その国際的なロビー活動の大きな舞台としては、世界貿易機関(WTO)があげられる。1995年に発足したWTOは世界全体の自由貿易を管理する国際機関だが、その守備範囲は工業製品だけでなく農産物からサービス貿易にまで広がり、さらに知的所有権の保護や環境規制など、貿易に関するあらゆる領域をカバーする。その権限の大きさと対象領域の広さは、グローバル化の一つの象徴とさえいえるが、WTOの商品取り引きのカテゴリーにはボトル詰めウォーターが含まれ、サービス貿易の約160種のなかには「環境サービス」の一つとして水道事業も含まれている。

 WTOのルールのほとんどはアメリカと欧州連合(EU)の間の調整を軸に成立したが、ここでルールとして合法化されたことで、国際的な水ビジネスが正当な取り引きとしてお墨付きを得たことになる。巨大な水企業が欧米諸国の政府に働きかけたことは、水に関する投資や貿易を認める国際的な体制ができることを後押ししたのである。

 ただし、水は農業をはじめとする産業、健康・衛生、自然環境などにも幅広くかかわるため、これを「商品」として扱うことに消極的な意見も早くからある。後述するように、水道事業に民間参入が認められた国では、価格が高騰して利用者の負担が大きくなったり、水質が悪化したりしたケースが目立つ。また、ボトル詰めウォーターを販売するため地下水を大量に汲み上げた結果、土壌が劣化したケースも少なくない。そのため、水ビジネスにかかわる企業とこれに反対する人々の対立は1990年代から表面化してきたが、その舞台となってきたのが世界水フォーラムだ。

 世界水フォーラムは国際NGO世界水会議によって運営され、水に関連する幅広い問題を国際的に検討するために1997年から3年おきに会合を開いてきた。ここでは、干ばつなどの災害対策に関する議論は一定の進展がみられるものの、水ビジネスに関しては事情が異なる。水企業が「ビジネスを通じた社会問題の解決」の有効性を強調するのに対して、貧困問題や環境保護の問題に取り組んできたNGOの多くは「水の『商品化』が人々の生活や自然環境を破壊してきた」と主張し、議論が平行線をたどってきたからだ。その結果、地球温暖化をはじめ、森林保護や砂漠化、ごみ問題などで世界的な条約が結ばれているなか、水資源の保護に関する世界的な取り決めは実現していない。

 多くの日本人が「安くて安全な水」を当たり前と思って過ごしてきた間に、世界では水をめぐる対立が深刻化してきたのである。

改正水道法は何が問題か
世界に逆行する「水道民営化」
 このように海外では「水道民営化」が深刻な対立を引き起こしてきたのだが、世界の潮流からみれば周回遅れとさえ呼べる2018年改正水道法にも、大きく三つの問題が見受けられる。

 第一に、法改正にあたって、民間参入にともなうリスクが国民にほとんど説明されていないことだ。コンセッション方式の導入を推進した政府は、「水道の危機」と「民間企業の効率的な経営」を金科玉条のようにかざす一方、「水道民営化」の先進地で多かれ少なかれ問題が発生してきたことには口をつぐんできた。

「民間企業の失敗」は主に、安全と料金があげられる。このうち、安全面での問題をあげると、コスト削減を重視する民間企業の運営によって安全対策がおろそかになり、水質が悪化するケースは数多く報告されており、PPP発祥の地イギリスの首都ロンドンでは、1990年代に赤痢患者が急増した。最近では2018年12月、イギリス南西部のコッツウォルズで、テムズ・ウォーターが環境規制に違反して汚水を河川にそのまま流し、自然環境を損ねたとして、裁判所から200万ポンドの罰金を命じられている。

 その一方で、「水道民営化」で料金が高騰することも珍しくない。民間企業にとっては採算が合わなければ話にならないため、公営の場合より水道料金の引き上げが目立つ。例えば、1985年にコンセッション方式を導入したパリでは、1985年から2009年の間に水道料金が265%上昇した。

 こうした問題は各地で報告されており、その結果、一旦民間企業に委託された水道事業が再び公的機関の経営に戻されることさえある。トランスナショナル研究所と国際公務労連の調査によると、2000年から2014年までの間に、民営化されていた水道事業が再公営化(エージェンシー化された公的機関による運営への切り替えを含む)された事例は、世界35カ国で180件にのぼった。また、イギリスのシンクタンク、スモール・プラネット研究所によると、民間委託された事業が再公営化される割合は、電気などエネルギーで6%、通信で3%、運輸で7%だったのに対して、水道の場合は34%にのぼる。

 こうした背景のもと、推進派だった国や機関からも、「水道民営化」に消極的な見解が生まれ始めている。2018年2月、世界銀行の専門誌『ワールドバンク・リサーチ・オブザーバー』が、「民間企業の参入だけでは水道事業のパフォーマンスは向上しない」と論じるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのソール・エストリン教授らの論文を掲載した。この論文は世界銀行の見解を示すものではないが、ワシントン・コンセンサスの一角として「水道民営化」の旗振り役を務めてきた世界銀行の専門誌にこうした論文が掲載されること自体、水道事業に民間参入を進めることの弊害があらわになっていることを象徴する。

 さらに2018年10月、PPPやPFIの本家ともいえるイギリスでは、新たなPFI事業を行わないことを政府が決定し、事実上PFIは中止された。これは「民間参入で公共サービスを改善できる」という従来の主張を翻すものといえる。

 こうしてみたとき、2018年改正水道法は周回遅れであるばかりか、世界の潮流に逆行するともいえる。

リスクを語らない不誠実さ
 それにもかかわらず、2018年改正水道法の成立の前後、日本政府は「水道民営化」の効能を説いても、そのリスクについてはほとんど語らなかった。2018年改正水道法の成立の後、厚生労働省は法改正に先立って再公営化の事例を3例しか検討していなかったことが明らかになったが、これは都合の悪いことにはフタをして、少しでも好都合なことを熱心に取り上げる姿勢を象徴する。政府は金融商品や健康食品の販売に関して、消費者にリスクを正確に伝えるよう企業に命じ、誇大広告を禁じているが、自らに関しては話が別のようだ。

 この姿勢は、国内の先行事例の取り扱いでも共通する。

 先述のように、浜松市では2018年4月、改正PFI法に基づき、下水道処理場の一部で、オリックスを代表とする企業連合により、日本で初めてコンセッション方式による運営が始まった。ここで強調すべきは、厚生労働省が2017年8月に官民連携推進協議会で発表した資料「水道法改正に向けて」のなかで浜松市のケースを参考として取り上げていることだ。浜松市の委託事業は2018年4月に始まったばかりで、コンセッション方式導入後の環境検査やコスト削減の効果の測定もまだ行われていない。このタイミングで浜松市をあたかもモデルケースのように扱うこと自体、イデオロギー的な主張であっても、科学的な思考からは逸脱していると言わざるを得ない。

 この問題に限らず、「これをやらなければ大変だ」と必要性を強調したり、「反対するなら対案を出せ」と逆に迫ったりするのはよく聞く論法だが、これらは批判に合理的に回答していることにはならない。

プリンシパル・エージェント問題
 2018年改正水道法の第二の問題点は、情報公開が十分ではないことだ。

 水道事業に限らず、PFIの導入、料金の設定、サービスの質などに関しては、基本的に自治体の合意が求められる(一部の美術館など文教施設での料金設定を除く)。水道事業でのコンセッション方式に関しても、まず事業計画の段階で、その他の公共事業と同じく、自治体は入札などを行って民間事業者を選定でき、2018年改正水道法では政府が確実性などを審査したうえで委託を許可できると定められている。また、料金の設定に関しても、改正PFI法によって自治体には条例で料金の範囲などを設定することが、改正水道法によって政府にはその料金設定が適切かを審査することが、それぞれ認められている。

 つまり、政府は自治体にコンセッション方式の導入を強制できるわけではなく、さらに自治体が監督権をもつことで、経営権を握った企業が法外な料金を請求したり、安全対策をおざなりにしたりしないようチェックできることになっている。そのうえで2018年改正水道法では、民間事業者は「厚生労働省で定める基準に従い、水道施設を良好な状態に保つため、その維持及び修繕をしなければならない。また、水道事業者は、水道施設の台帳を作成し、保管しなければならない」と、その義務が定められている。

 しかし、これらの規定は有名無実になりかねない。情報が共有されなければ、政府や自治体は、事業者が契約や法令に沿った経営を行っているかを判断できないが、2018年改正水道法では民間事業者の情報開示が十分に定められていないからだ。

 例えば、改正水道法では「水道事業者は、水道施設の更新に要する費用を含むその事業に係る収支の見通しを作成し、これを公表するよう努めなければならない」と定めるにとどまっている。つまり、どのくらいのコストが必要かという見積もりの公表は努力目標に過ぎず、義務ではない。そのため、極端にいえば、企業が(入札に勝てる程度に)安い見積もりを作成し、長期にわたって事業を独占するなかで、物価上昇などを理由に実際より高く料金を設定しても、外部から確認することは難しい。実際、第2章で取り上げるように、フランスでは水道事業に関する情報の透明性が低く、そのなかで民間事業者が適正価格を上回る料金を徴収していた事例も報告されている。

 業務を委託した側が委託された側の仕事ぶりを公正に評価するためには、情報の共有が欠かせない。委託した側と委託された側に情報格差があれば、現場の実情をよく知る委託された側が自分に都合よく業務を行いかねず、これは結果的に委託した側の損失となる。これを政治学などでは「プリンシパル・エージェント(本人と代理人)問題」と呼ぶ。この観点からみると、2018年改正水道法で情報の共有が義務付けられないことは、公的機関によるチェックを骨抜きにしかねないのである。

 また、仮に事業者が自治体にだけは収支見通しを伝えるとしても、別のプリンシパル・エージェント問題が発生する。自治体は事業者に対してプリンシパルであっても、住民に対してはエージェントの立場にあるからだ。その意味で、自治体が住民からの評価にさらされることは避けられないが、PFI導入を推し進めた自治体とりわけその首長は、どんな結果が発生しても成果を強調しかねない。

 ところが、情報公開が努力目標に過ぎなければ、事業者のサービスの良し悪しも、あるいは民間委託の決定そのものの良し悪しも、住民には判断材料がないことになる。つまり、2018年改正水道法は事業者である企業にとって都合がよくとも、究極的なプリンシパルである利用者の利益の保護を軽視する内容といえる。

問題発生の歯止めはあるか
 そして第三に、2018年改正水道法では民間委託による問題の発生を防止する措置が欠けている。

 先述のように、民間委託にともなう安全面、コスト面の問題の多発から、世界では水道事業の再公営化の波が大きくなっている。これに関して、元内閣参事官の高橋洋一嘉悦大学教授は、改正水道法が成立した直後、フランスなどで民間企業によって経営される水道事業のうち、再公営化された案件の割合は高くないと指摘し、さらに国内の水道の多くが民間委託されていても再公営化がほとんど発生していない国としてドイツをあげて「再公営化の波が一部に過ぎない」と強調したうえで「騒ぎすぎ」と断じた。

 実際、再公営化の波を世界に発信したトランスナショナル研究所などの報告でも、フランス(49件)、アメリカ(59件)などで再公営化が目立つ一方、ドイツでは8件にとどまり、イギリスではゼロだ。水道事業における民間委託の割合がドイツでは56%(2008年段階)、イギリス(イングランドとウェールズのみ)では100%にのぼることを考えると、全ての国で再公営化の波が押し寄せているわけではないことは間違いない。

 ただし、ここで注意すべきは、再公営化されていなければ何も問題がないというわけではないことだ。詳しくは第2章で述べるが、フランスなどではたとえ問題が深刻でも、自治体の交渉力の弱さから一旦民営化されたものを転換できないことは珍しくない。

 これに加えて、再公営化が進んでいないドイツやイギリスでは、民間委託にともなう問題発生に歯止めをかける制度が設けられている。例えば、ドイツでは水道事業にベンチマーキングが導入されている。ベンチマーキングは金融などの手法で、製品やサービス、あるいは事業のプロセスなどを継続的に観測するとともに、優れた競合企業のパフォーマンスと比較分析するものである。つまり、ドイツの場合、民間事業者の仕事ぶりは常に測定されるため、問題ある事業者が居座り続けにくく、利用者である住民の満足も得やすい。

 一方、イギリスの場合、1989年に水道事業への民間参入が認められるのと同時に、料金を監督する水道事業規制局、上水道の水質検査に責任を負う飲料水検査局、河川などの汚染を監視する環境局が設立された。これら三つはいずれも中央省庁から独立し、それぞれの業務に特化したエージェンシーで、これらが民間委託にともなう問題発生を防止する歯止めとなってきた。

 つまり、ドイツやイギリスで再公営化が発生していない背景には、「水道民営化」にともなって発生が予想される問題を抑える仕組みがある。これらの点をぬきに、「再公営化は決して多くない」といっても意味がない。

「絵に描いた餅」の監督体制
 それでは、この点で日本はどうか。改正水道法によって、政府には水道施設の改善の指示や立ち入り検査を行うことが認められ、必要な場合には運営権の取り消しなどを自治体に要求できる。また、改正PFI法によって、自治体には業務や経理に関する報告を求め、実地調査し、必要なら運営権の停止・取り消しを行う権限が与えられている。

 これらの内容からは、公的機関が民間事業者を監督できると映るかもしれない。しかし、日本ではイギリスのように専門の監督機関を設けることが想定されていない。そのため、民間企業に経営が委託された場合、中央省庁や自治体の関連部局が、その他の業務の合間に水道事業者の業務を監督することになる。とりわけ、もともと人員が不足しがちな小規模な自治体で、十分に監督できるかは疑わしい。

 さらに、2018年改正水道法には「指定給水装置工事事業者の指定は、五年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効力を失う」という規定があり、これは定期的に契約更新することで問題発生を防止するものといえる。ただし、ドイツのようにベンチマーキングが制度化されていないため、発注主である自治体が事業者のパフォーマンスを評価する基準が曖昧で、時期がくればただ継続を承認する、ということになりかねない。

 これに加えて、自治体や政府には、問題ある民間事業者に実地調査や立ち入り検査を行う権限が与えられているが、これも十分ではない。

 もともと日本では、民間企業の監査・監督が性善説に基づいて行われてきた。近年、日本では食品、鉄鋼、自動車など各種メーカーで品質偽装が長期にわたって野放しにされてきたことが相次いで発覚しているが、これは「コスト削減を何より優先させる企業の意識」だけが原因ではなく、監督機関が立ち入り検査や監査を事前に予告するなど、企業に対するモニタリングが形骸化していたことも、その土壌になってきた。実質的な監督が十分でない状態で、水道事業者だけは正直に行動すると誰が保証できるのだろうか。言い換えると、予告なしの立ち入り検査を行うといったルールが定められていない2018年改正水道法では、公的機関による監督が、絵に描いた餅になりかねないのだ。

遅れてきた新自由主義は誰のためか
民間委託でコストは削減される?
 こうしてみると、2018年改正水道法には問題が多く、政府や推進派が強調するように「民間参入によって水道事業が安全かつ効率的に運営される」かは疑問だ。これは一体、誰にとって利益になるのか。

 推進派は自治体にコスト削減の効果があると主張する。コンセッション方式では、長期にわたって、しかも事業の各段階を個別にではなく一括で委託するため、入札などを行う自治体の経費、時間、人手が削減できるうえ、受注した事業者から対価を受け取れる。日本で初めて下水処理場の経営にコンセッション方式を導入した浜松市は、市の直営と民間事業者による運営で20年間にかかる経費を、それぞれ約600億円、約513億円と試算しており、これによって約86億円以上の経費が浮くと見込んでいる他、事業者から経営権の対価として25億円を受け取っている。

 財政難に陥っている各地の自治体にとって、削れる経費は何でも削るべきという圧力は強く働いている。これらの自治体からみて、コスト削減と対価収入を期待させるコンセッション方式が魅力に映ったとしても不思議ではない。

 ただし、一般的に「民間企業は効率的に経営されるので同じサービスでも公的機関より割安で提供できる」と考えられがちだが、場合によっては民間企業のサービスの方が割高になることも珍しくない。下水道事業でPFI導入を唱道する国土交通省も、自治体向け資料のなかで「PFIを活用すれば全ての事業でより安くなるわけではない」と釘を刺している(この点で、コンセッション方式の効能しか強調しない厚生労働省や経済産業省と比べて、国土交通省はまだしも誠実といえる)。

 このように考えるのは、「世間知らずの」研究者や一部の官僚だけではない。国際都市行政学会は2007年、公共サービスを一度民間企業に委託した後に公営に戻したシティーマネージャーを対象に、再公営化の理由を尋ねるアンケート調査を実施した。シティーマネージャーとは、1990年代にアメリカで導入された役職で、市長などの首長から自治体の運営を委託される、いわば経営のプロだ。選挙で選ばれた首長は、自分が選んだシティーマネージャーの仕事に責任を負う。両者の関係は民間企業における社長と最高経営責任者(CEO)のそれに近く、シティーマネージャー制度そのものが公共サービスに市場メカニズムを取り入れるトレンドの象徴でもあるが、このアンケート調査の回答で最も多かったのは「サービスの質」(61%)で、これに「コスト削減の効果」(52%)が続いた。この結果からは、経営のプロの間でも、民間委託で常にコスト削減が期待されるわけではないという見解が珍しくないことがうかがえる。

民営だけにあるコスト
 なぜ、民間企業のサービスが割高になることがあるのか。コーネル大学ミルドレッド・ワーナー教授はアメリカ全土での統計的調査に基づき、「民間企業による水道経営でコストが削減された証拠はない」と結論づけ、その理由として以下の各点をあげた。

・価格の抑制は競争によって生まれるが、水道事業では競争が働きにくい
・公的機関は環境規制をおざなりにできないため、民間事業者によるコスト削減に限界がある
・情報格差や監督の不備により、民間事業者による施設の建設費用などが、しばしば公設の場合より高くなる
 ドイツやイギリスと比べて、アメリカにおける民間委託は事業者に対する監視・監督が緩く、この点で日本の2018年改正水道法に近い。ワーナー教授の研究は「民間企業に任せれば効率的に経営されるはず」という一種の思い込みを打ち消し、適切な管理を欠いた市場経済の危うさを指摘するものといえる。

 そのうえ、ワーナー教授の議論には含まれていないが、民間企業だからこそ発生するコストもある。例えば、民間企業は公的機関と異なり、株主への配当や税金などを支払わなければならないが、これらは民間企業にとってコスト負担となり、これが料金に上乗せされて割高になることがあり得る。

 さらに、民間事業者による水道運営に住民の不満が高まり、契約期間内に再公営化する場合の違約金も、自治体にとってコストになり得る。例えば、アメリカのインディアナポリス市は2002年、コンセッション方式に基づきヴェオリアと20年契約を結んだが、水質汚染などを理由に住民の抗議運動が激しくなった結果、10年間で契約を打ち切って水道事業を再公営化した。この際、インディアナポリス市は2900万ドルの違約金の支払いを余儀なくされている。もちろん、インディアナポリス市は民間参入にコスト削減を期待したのだろうが、結果的には「安物買いの銭ぜに失うしない」になったといえる。

 ただし、ここで注意すべきは、民営化で確実にコストが削減できるわけではないのと同じように、公営の方が常に割安とも断定できないことだ。つまり、コスト削減の効果をあげるうえで重要なのは、公営か民営かといった経営主体の問題よりむしろ、ムダを排除するための情報の透明性や監督体制、いわゆるガバナンスの改善といえる。そのため、この点を重視しない2018年改正水道法では、自治体にコスト削減を約束することは難しい。

水ビジネスの魅力
 自治体にとってのメリットが不確実な一方で、水道事業のコンセッション方式は、各種の民間企業や投資家にとって新たなビジネスチャンスの到来を意味する。内閣府の民間資金等活用事業推進室の資料によると、2013年から2017年までのコンセッション事業の規模は合計で5・6兆円にのぼり、同じ時期のその他のPFI事業を全て合計すると11・5兆円に達した。このうち、先述のように上下水道の案件はまだ少なく、2018年7月の段階で、浜松市を除く5件はいずれもまだデューディリジェンス(資産価値の調査)などの段階だ。

 しかし、民間事業者に大きな裁量を認めるコンセッション方式を導入する自治体が増えれば、水道設備に関連する企業にとってだけでなく、さまざまな企業にとって、いままで埋もれていた市場が急浮上することになる。実際、第3章で詳しく述べるように、これまで日本でも、横浜市川井浄水場での包括的委託事業や浜松市下水処理場でのコンセッション事業など、水道事業に関する大型のPPP案件は実現してきたが、それらのいずれでも機械、金融、エネルギーなど異業種の企業連合が受注している。

 ただし、水道事業への民間参入の解禁をチャンスとみるのは日本企業だけでなく、海外の水企業、とりわけ水メジャーと呼ばれる、世界各地で水道事業を経営してきた巨大企業も同様である。水メジャーは料金高騰や水質悪化などの理由から少なからず悪評も買ってきており、新たな進出先を常に求めてきた。

 その水メジャーにとって、主要国のなかで例外的に水道の公営が保たれる日本は、長くフロンティア(未開拓地)であり続けた。さらに、日本の場合、水処理の機器やろ過素材の開発といった技術分野に強い企業は多いが、公営が長かったため、水道事業の経営そのものにノウハウや実績をもつ企業がほとんどない。これは、水メジャーにとって強力なライバルが少ないことを意味する。

 その水メジャーの一部は、すでに日本に上陸している。構造改革を旗印とした小泉政権が発足した翌2002年にヴェオリアが、2015年にはスエズが、それぞれ日本支社を設立した。このうち、とりわけヴェオリアは日本企業との企業連合の一員として各地で包括的業務委託などに参加して実績を積み、浜松市のコンセッション事業にも参加している。

 水メジャーには、進出先の政府に水道事業の規制緩和などを働きかけることが珍しくないが、これは日本でも同じだった。内閣府の民間資金等活用事業推進室は安倍晋三政権による「官邸主導」のPFI拡大の拠点であり、2018年水道法改正の拠点ともなったが、ここには2017年4月から2年間の予定でヴェオリア社員が政策調査員として出向している。ヴェオリアの露骨なまでのロビー活動は、日本での水ビジネスに利益を見出す海外企業の姿を象徴する。

取り残される利用者
 こうしてみたとき、水道事業でのコンセッション方式の導入は、財政難の自治体や新たな市場を求める民間企業にとっては、それぞれ多かれ少なかれ利益を期待させるかもしれない。しかし、民間事業者に情報公開を義務付けず、公的機関による監督体制も明確に定めていない2018年改正水道法が、利用者である住民にとって利益になるかは疑わしく、そこには安全と料金の両面で懸念が大きい。

 このうち、まず安全面に関していうと、先述のように、公営だから安全とは限らないが、民間企業よりコスト削減の意識が低いからこそ、公的機関の方が安全管理で手抜きをするインセンティブは小さい。逆に、コスト意識が強くなるほど、非常時の対策への備えがおろそかになりやすい。だからこそ、民間企業の参入を促すにしても公的機関による監督が欠かせず、世界各地の事例からは、この監督体制の弱い国ほど安全面での問題が深刻化する傾向が見て取れる。

 ところが、先述のように、2018年改正水道法では民間事業者に十分な情報開示を義務付けず、専門の監督機関の設置も、価格の比較検討の制度化も定めていない。利用者にとって実情を可視化する仕組みがほぼないにもかかわらず、「民間委託によって効率があがり、質の高い水道サービスが提供できる」と強調することは、新自由主義者のイデオロギー的主張としては理解できるが、説得力ある説明とはいえない。

 一方、料金に関して強調するべきは、民間企業の経営が効率的だったとしても、現状より水道料金が下がることは想定できないことだ。もともと水道事業が火の車である以上、たとえ公営を維持しても、水道料金が今後ますます値上がりすることは避けられない。そのため、好意的にいっても、民間委託に期待できるのは料金上昇のペースを遅らせることまでであり、たとえ良心的な事業者が経営したとしても、値上げがいずれあり得ると利用者は覚悟しなければならない。

 ただし、これも情報公開が十分で、さらに民間事業者に対する実質的な監視・監督が可能なら、という話である。2018年改正水道法のもとで民間事業者は、自治体の同意なしに水道料金を設定できないが、逆にいえば、物価上昇などを理由に自治体さえ納得させられれば料金引き上げも可能になる。情報公開や監督体制が十分ではない2018年改正水道法には、水道料金が公営の料金より高くなることを防ぐ手立てを見出せない。

 要するに、2018年改正水道法は、企業活動の自由を優先して規制が極めて緩い一方、利用者である住民への配慮は乏しいのだ。政府がいうように、水道事業が火の車であることは確かだろう。しかし、それで世界

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